10 | SEEDS研究の内容(大学院向け)未発表の直筆資料を翻刻して、これまで誰も知らなかった西田哲学の原風景に迫り、「自由」とは何かを考え直す 2015年に西田幾多郎の直筆資料が大量に発見された。これらの資料からは特に金沢時代の西田が当時の哲学の最新情報や、心理学などの諸科学の成果を取り入れていたことがわかる。また、「至誠」など東洋思想に由来する鍵語が見られる点も注目に値する。資料を保存している石川県西田幾多郎記念哲学館の翻刻プロジェクトに参画して翻刻(図2)を行い、これまで知られてこなかった西田幾多郎の思想形成の背景を明らかにできるよう取り組んでいる。 西田の新資料を手がかりに再検討しているのは「自由」という言葉である。現代の医療現場で重視される生命倫理学の根本には、患者の自由な意志決定を尊重するという考え方がある。けれども、私たちは本当に自由に意志決定ができているのか。そもそも、自由な意志決定とはどのようなものなのか。西田の思想や、関連する西洋の思想を手がかりに考え直したい。日本哲学/西田幾多郎/生命倫理学Yuta Nakajimacontact: nakajima@ishikawa-nu.ac.jpリサーチマップ https://researchmap.jp/y-nakajima図1.西田幾多郎(1870-1945)(石川県西田幾多郎記念哲学館提供)哲学の魅力は、私たちが当たり前だと思っていることをあらためて考えてみるところです。どんな日常の中にも、人生の中にも、考えると興味深い哲学的問題がつまっていて、哲学を通してみると人生はもっと豊かに感じられると思います。メッセージ図2.翻刻支援ソフト SMART-GSの作業画面研究分野日本哲学/西田哲学/生命倫理学所属学会西田哲学会/日本倫理学会学歴?経歴2009年京都大学大学院文学研究科日本哲学史専修修士課程 修了2012年京都大学大学院文学研究科日本哲学史専修博士課程 単位取得退学2015年石川県西田幾多郎記念哲学館 研究員2018年石川県西田幾多郎記念哲学館 専門員2022年石川県立看護大学 講師受賞2023年比較思想学会研究 奨励賞論文●「西田の新資料『倫理学講義ノート』における人格の問題」『西田哲学会年報 第18号』(pp.50-93)2021年●「西田哲学とヴント心理学の直接経験-その無基体的性格について-」『比較思想研究 第46号』(pp.48-56)2019年書籍等出版物西田幾多郎著『西田幾多郎全集別巻 倫理学講義ノート?宗教学講義ノート』岩波書店, 2021年(翻刻主担当)講演?口頭発表等甲南大学人間科学研究所 第4回九鬼周造記念シンポジウム「書簡と遺稿が伝える哲学者九鬼周造の面影」, シンポジスト, 2022年12月17日日本で最初の哲学者、西田幾多郎の思想を通じて、私たちの思考の背景を探る研究の概要 「自由」「社会」等々、これらの日本語はもともと西洋哲学の言葉の訳語で、明治時代の哲学者たちによって作られたものである。日本人が西洋の哲学をどのように受け止め、それを自分の物にしていったのかを知ることは、現代の日本の社会を形作っているものの考え方の背景を知ることにつながる。日本で最初の哲学者ともいわれ、世界で最も注目されている日本人哲学者である西田幾多郎(図1.石川県かほく市生まれ)の研究を通して、私たちの日常的な思考の背景と、その可能性を探っている。中嶋 優太 講師
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