研究者情報 研究シーズ集
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SEEDS | 13研究の内容(大学院向け)「マイナー」な作品から、当時の書物文化への理解を刷新する ピーター?イドリー作『息子への教え』は、これまであまり注目されることのなかった作品であることもあって、現存するバージョン同士の比較といった、基本的な分析に関して現在も研究の余地が残されています。詩が転写を通して多くの人々や地域に流布していったパターンについても、これまで重点的に研究されてきた同時代の他の作品のパターンとは異なる側面を持っており、15世紀イングランドの書物生産に関する新たな問題を提起する可能性を秘めています。中世英文学/西洋中世写本研究/中世イングランド書物文化Yoshinobu Kudocontact: yshkudo@ishikawa-nu.ac.jpリサーチマップ https://researchmap.jp/ykudoあらゆる物事を学問的に探究する面白さを、大学で感じて欲しいと思います。高校でいま取り組んでいる学習に、無駄なことは何ひとつありません。あとで必ずつながってきますので、安心して励んで頂きたいと思います。メッセージ研究分野中世英文学/西洋中世写本研究所属学会The Early Book Society/西洋中世学会日本英文学会/日本中世英語英文学会学歴?経歴2014年英国ヨーク大学大学院英文学科修士課程 修了2014年慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻後期博士課程 単位取得退学2021年石川県立看護大学 講師受賞2021年第2回西洋中世学会賞2021年日本中世英語英文学会松浪奨励賞論文●‘Self-Identity and Self-Presentation in theLate-Fifteenth-Century Norwich Merchant’s Miscellany Manuscripts Known as “The Fisher Miscellany”’, Journal of the Early Book Society , 25 (2022), 1-38●‘Reinstalling Clerical Authority, Juridical and Didactic: The Unique Rearrangementsof Book II of Peter Idley’s Instructions to his Son in London, British Library, Arundel MS 20’, Medium ?vum , 88 (2019), 265-300書籍等出版物大沼由布, 徳永聡子編『旅するナラティヴ-西洋中世をめぐる移動の諸相』(知泉書館, 2022年)(13章を執筆)講演?口頭発表等西洋中世学会第12回大会自由論題報告「中英語文学ミセラニー写本にみる読者の関心, イデオロギー形成, そして教訓的テクストの機能-Cambridge, Magdalene College, Pepys MS 2030 およびCambridge University Library MS Ee.2.15の新考察」2020年10月3日競争的資金等の研究課題日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)「 ピーター?イドリー教訓詩の伝播の実態を探るテクスト批評?人物研究?古写本学的分析」社会貢献活動公益財団法人尚志社北陸地区奨学生選考委員教訓詩の内容とその翻案の諸相から、中世イングランド社会の人々の価値観と書物文化を考える研究の概要 社会が大きく揺れ動いた15世紀イングランドで、父から息子への人生の教訓を綴った一篇の英語詩が生まれました。ピーター?イドリー作『息子への教え』という名で知られるこの詩は、その内容自体において、中世イングランドの人々が何を善しとし、何を善しとしなかったかを窺い知るための題材といえますが、さらにこの教訓詩にはもととなる作品(材源)が存在します。材源との比較を通して、教訓の内容や表現がどのように変わっているかに着目すると、古くからの教訓を著者の生きていた時代に沿ったものとなるよう、翻案している様子が浮かび上がります。こうした教訓の翻案に、世相の変化を読み解くことができます。本教訓詩は、著者からその息子へ宛てて書かれた当初の文脈を超えて、転写を通して多くの読者に読まれました。家族や親しい人々の間で交わされた書簡など、15世紀当時の人々の生きざまが垣間見える史料と照らし合わせることで、人々がいかにイドリーの詩に具現化されているような一連の教訓とともに生きていたかがわかります。工藤 義信 講師

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