講座紹介

 共同研究講座「看護理工学」では、「スキンケアサイエンス -皮膚から健康状態を把握する-」を研究テーマに掲げ、石川県立看護大学?峰松健夫教授(当時、東京大学特任准教授)が筆頭となる研究チーム(以下「研究チーム」という)が2014年に開発した独自技術であるスキンブロッティングを基盤とした、臨床のニーズに基づく新たな看護技術?機器の開発に取り組む。

スキンブロッティングとは

 皮膚の中には、血管から染み出した体液(間質液)に全身の健康状態を反映するマーカー(タンパク質等)と、皮膚の局所状態を表すマーカーが存在する(図1)。
 スキンブロッティングは、1 cm角の皮膚パッチ(静電気を帯びマーカーを吸着するテープ)を湿らせ、10分間皮膚に貼るだけでこれらのマーカーを抽出する技術であり(図2)、出血や痛み、針刺し事故による感染のリスクを伴う採血や組織生検に代わって、様々な検査や評価に応用可能である(Minematsu et al., 2014)。
 スキンブロッティングは本来、皮膚の局所状態を評価する技術として開発されたが、本講座では全身の健康状態の評価技術としての応用を中心として研究に取り組む。

図1 スキンブロッティングの原理
図2 スキンブロッティングの手順

1. 慢性脱水の遠隔予防?ケアシステムの構築

 研究チームの調査により、在宅で療養生活を送る高齢者の実に6割が脱水または脱水のリスクが高い状態(かくれ脱水)にあることが判明した(Higashimura et al., 2021)。ここで問題とする「脱水」とは、夏季の熱中症ではなく、季節を問わず知らぬ間に進行し、自覚症状がほとんどない「慢性脱水」である。慢性脱水の状態を放置すると認知症やフレイル(心身の虚弱)を助長してしまう。
 研究チームは、これまで採血なしでは不可能であった慢性脱水の同定を、スキンブロッティングの応用により、採血なしで同定できる技術をすでに開発している。本講座では、この技術を用い、自動かつ迅速な測定に加え、訪問看護ステーション等に自動送信する検査機器の開発、ならびに訪問看護ステーションの看護師等がその検査結果に基づいて遠隔で予防やケアを提案するシステムの構築に取り組む(図3)。これによって、高齢者自らによる健康管理と、必要性に応じた遠隔指導または訪問看護が可能となる。

2. 採血いらずの生化学検査を実現する超小型検査装置の開発

 血液の生化学検査は、栄養状態や健康状態を確認するために極めて重要であり、定期的?継続的にモニタリングすることで健康維持、疾病予防に大変有効である。しかし、採血が必要であると同時に大型の検査装置が必要であるため、病院受診時や、定期健康診断でしか行うことができない。
 そこで当講座では、スキンブロッティングにより抽出したマーカーから、その場で迅速に血糖や栄養状態などの多数の項目の検査を実現する超小型検査装置を開発する。
 これによって、在宅で療養する高齢者が、自宅にいながら自分で健康状態をモニタリングし、病院を受診すべきか否か判断可能となることで、高齢者が適切な時期に医療を受けることができるようになり、在宅で安心して暮らせる社会の実現および効率的な医療提供に貢献することが期待される(図3)。

図3 慢性脱水や全身状態のセルフモニタリングによる異変予測と遠隔ケアシステム